今回はメタルヒーローシリーズ第14弾「重甲ビーファイター」第23話「怪人に花束を・・・」について語りたい。
まず、その前に「重甲ビーファイター」のシリーズの流れを軽く触れておきたい。
そもそもビーファイターとは昆虫達が自らの生命を捧げることで生み出された"昆虫の精"と、人間が開発したプロトタイプアーマーが融合した、インセクト・アーマーを装着し、異次元からの侵略者ジャマールと闘う、3人の若者達のことである。
そしてビーファイターをバックアップするのが、アースアカデミアの向井博士と昆虫界の長老・老子グル。
ビーファイター
・ブルービート(モチーフはカブトムシのオス)=甲斐拓也
昆虫学者でビーファイターのリーダー。学者だけあって知的かつ、冷静沈着である。また、リーダーという役割から責任感が強く、それ故に彼は重い十字架を背負ってしまうことになる。
・ジースタッグ(クワガタのオス)=片桐大作
樹木医で熱血漢。その反面、物事を決めつけてかかってしまうところもあるが、後に、それによって深い感動を生む。ある意味、従来のヒーローらしい性格。そして、父親は頑固者の漁師・大鐵。
・レッドル(モチーフはカブトムシのメス)=初代・葉山麗
水族館のインストラクター兼動物学者。クールで正義感の強い性格であったが、第22話をもってアースアカデミア南米支部に転任。
二代目・鷹取舞
葉山麗に代わって、二代目レッドルを引き継く。彼女は前任の麗とは違って、明るいムードメーカー的存在であり、当初、大作には能天気と呼ばれる。しかし、彼女の芯の強い優しさこそ、二代目レッドルに選ばれた理由である。
そして、今回語る、第23話「怪人に花束を・・・」は彼女が登場した直後の回である。
ジャマール
数々の次元を侵略する、異次元侵略軍団ジャマール。そのジャマールの首領として君臨するのが、ガオーム。ガオームは第18話でビーファイターの前に姿を現し、直接対決するが、破れる。しかし、直後により巨大な姿となって復活を果たす。
そして、ジャマールは三軍団で構成されている。
ちなみに、ジャマールは基本的にビーファイターのことを虫ケラと呼ぶ。
・傭兵軍団、軍団長ジェラ
赤いコスチュームに、ベレー帽とマスクを被った女性幹部。戦闘力は極めて高く、自らが倒した者などを傭兵として従えている。残忍な性格だが、仲間への情は厚い。
また、マスクを被っているが、自分の容姿に自信があるらしい。
・合成獣軍団、軍団長ギガロ
様々な生物の遺伝子から、凶暴な合成獣を作り出す。元々は狩られる立場の存在であったが、ガオームに忠誠を誓い、自らを改造、凶暴な存在となった。
・戦闘メカ軍団、軍団長シュヴァルツ
戦闘メカを製造するロボット幹部。だが、かなりぶっ飛んだ性格で、ビーファイターのことを"お笑い3人組"と揶揄したが、むしろ、自分が番組のお笑い担当である。そのため、どこか憎めない存在。
また、兄・マッチョNo.5を"自身で"作り上げ、慕っていた。弟ではなく、兄なのが非常に彼らしい。
「重甲ビーファイター」の前作「ブルースワット」は異星人=エイリアンとの闘いが描かれた。また、番組の初期はリアル路線であったため、視聴率では苦戦を強いられたようだ。「ブルースワット」はメタルヒーローシリーズの中では異色的な立ち位置に属するだろう。しかし、その後作である「重甲ビーファイター」は「ブルースワット」から打って変わって王道的な作風であり、メタルヒーローシリーズの集大成とも言われている。さらには続編「ビーファイターカブト」が製作されるなど、本作の評価は高いと言える。
あらすじ
第23話「怪人に花束を・・・」
1995年7月9日放送 脚本:扇澤延男 監督:三ッ村鐵治
涙を流す舞。このサムネこそ、本話の象徴している。
二代目レッドルになりたての舞と、先輩ビーファイターの拓也・大作の前に、武者修行を終えたジェラと傭兵・ゴルゴダルが現れる。舞は傭兵が金によって雇われた兵士だと知り、突如、ゴルゴダルに説教を始める。予期せぬ出来事に両側とも戸惑うが、ゴルゴダルは拍子抜けしてしまい、ジャマールとの関係を断とうとする。だが、冷酷非道なジャマールはゴルゴダルをタダでは済ませなかった・・・。
今回は凄い。ヒロインが突如、変身(重甲)解除して、怪人に説教するという展開から幕を開ける。
前回第22話で、舞は二代目レッドルとして登場。麗が去って、拓也と大作は意気消沈ムードであったが、舞の明るいキャラクターがそのムードを吹き飛ばし、ある意味、番組のトーンすら変えてしまった。
だが、今回は舞の戦いの厳しさに直面する。
まず、舞はレッドルに重甲してビートマシン・レッドジャイロで新兵器メガヘラクレスの捜索をしているが、加入したてのため、操縦は不慣れ。大作に危うく接近!!
ここで舞がニューフェイスであることが強調されているのと、さらにはレッドルの重甲していることが、ゴルゴダルの説教へと繋がる。
ちなみに、新兵器メガヘラクレスは前回、シュヴァルツによって輸送機を爆破されてしまい、行方不明となっている。
拓也と大作がメガヘラクレス捜索が暗礁に乗り上げてる中、舞(レッドルのまま)は「間もなく見つかると思いまーす」と能天気に向井博士に報告。
そこに武者修業から帰ってきたジェラと傭兵ゴルゴダルが登場。
"新米戦士"の舞ははじめてジャマール幹部ジェラと傭兵兵士と対面。さらには傭兵が金で雇われた兵隊と知って驚く。
そして拓也と大作も重甲し、戦闘開始。
戦闘の最中、舞は小娘呼ばわりされる。怒った舞は逆にゴルゴダルをおやじ呼ばわりして説教。またあのジェラをおばさん呼ばわりした。それに対してジェラは「ジャマール一(いち)の美貌を誇る私に!!」と激怒。
説教の通じないゴルゴダルに、舞はムキになって重甲を解除。舞の顔を見たゴルゴダルは「こんな娘が戦士なのか・・・」と驚く。
ブルービート「どうして重甲を解くんだ!?」
舞「ちゃんと相手の目見て話さなきゃ、気持ちが通じないじゃない!あのね、おじさん。おじさん、けっこう骨のある人らしいから言うけど、悪の世界なんかから足を洗うべきよ、今すぐに。」
ゴルゴダル「うーん・・・。」
舞「ねぇ!」
ジースタッグ「通じるわけないだろ、ジャマール野郎なんかに人間の説教が!!」
舞「どうして!?同じようにかけがえのない同じ命を持って生まれてきたもの同士じゃない。怪獣や怪人にだって命はあるもん。 」
ブルービート、ジースタッグ「うん・・・。」
舞によって、ゴルゴダルはすっかり戦意が萎えてしまい、ジェラに逆らって勝手に撤退してしまった。
舞の気持ちが怪人に通じた瞬間だった。
命懸けの戦闘中なのにも関わらず、おやじ、おばさんなどの言葉が飛び出すなど、絶妙な緊張と緩和がありつつ、舞はジャマール怪人=言葉の通じない悪の認識になっていた先輩ビーファイターの二人に、その認識を打ち破った上に、改めて命というものを考えさせた。
それは舞の芯の強い優しさと、戦士らしくなさが功を奏したのだろう。
前半は舞のキャラクターによる、ハートフルな展開てあったが、後半は一気に悲劇的な展開に・・・。そう、ジャマールとの関係を断とうとするゴルゴダルを、残忍なジャマールが許さなかったのだ。
ジェラはゴルゴダルの脳の言語中枢や、記憶や感情を司る部分を破壊、言葉の通じない、戦闘マシーンに仕立て上げたのだ。
それでも舞は必死にゴルゴダルに言葉をかけ続ける。
だが、ゴルゴダルは言葉を発しない。
先輩ビーファイターの二人も、そんな舞を見守る。大作ですら、ゴルゴダルを「おっさん!」と呼ぶ。
そして、ゴルゴダルはやっと「舞・・・。」と言葉を発したのだが・・・。
これは正直、涙なしでは見れない回なのだ。
今回の怪人というよりも、おじさん・ゴルゴダルの造形はスーツアクターの顔が完全に隠れているのではなく、目と口が見えるのである。そのスーツアクターの目と口の演技によって、ゴルゴダルの感情の揺れが、こちらにひしひしと伝わってくる。
ゴルゴダルというネーミング、そして武器は十字型のブーメラン。非常に意味深い。
また、ゴルゴダルの声を演じたのは加藤精三氏。加藤氏は「仮面ライダーBLACK RX」のクライシス帝国・ジャーク将軍の声を演じており、東映特撮ファンには馴染み深い声優さんであろう。
渋い声質の加藤氏が演じているため、ゴルゴダルは非常に存在感があるのだが、舞におやじと呼ばれた時に、「おやじ〜い?」とギャグっぽく言い返すシーンなど、そのギャップがたまらない。
本作は侵略者との戦いという前提を覆しかねない回だったのか、それ以降、ジャマール傭兵はシニガミアン(第28話)を除き、純粋な悪の傭兵はほとんど登場しなくなった傾向にある。
ちなみに、シナリオタイトルは「小娘じゃないもン」。このタイトル、割と好み。